矯正歯科を知る
矯正治療にともなうリスク一覧
矯正治療をおこなうことによるリスク(弊害)は、多かれ少なかれですがあることも事実です。
よく聞くところでは歯肉退縮や歯根吸収、また抜歯で治療をおこなった場合などは、豊齢線(ほうれい線)が深くなるなど、女性としては気になることも起こることがあります。
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矯正治療をおこなう上でのリスク
目次
歯肉退縮
歯肉退縮は一見では分からない程の変化のことが多いですが、歯の移動距離や移動方向によっては顕著に起こることがあります。
特に、非抜歯で歯列の拡大を行った場合や、現状より前方や外側に向かって歯を移動した際に歯肉の退縮が起こりやすくなります。元々、歯肉の退縮がある歯牙は、より退縮が起こりやすいです。
歯根吸収
歯はお口の中に見えている「歯冠」と歯茎とアゴの骨の中に埋まっている「歯根」があります。矯正力により歯が動く仕組みは、歯根の周囲のアゴの骨が添加(骨が増える)と吸収(骨が減る)で変化することで、歯がアゴの骨の中を移動します。歯の移動量に伴い多少なり歯根も変化します。抜歯ケースなど歯根の移動量が大きくなると歯根吸収量も大きくなり、また硬い骨に歯根が当たる位置に歯を動かさなくてならない場合も吸収量は大きくなります。
とは言え、通常は歯根の1~5%程で、その後の歯の健康には影響はないと言われていますが、元々も歯根が短い短歯根歯では吸収がより起こりやすくなります。事前の検査結果でそのへんのリスクもよく聞いておくことも必要です。
知覚過敏(冷たい物が沁みる)
歯肉の退縮に付随して知覚過敏など冷たい物が歯にしみるなどの症状がでることがあります。大抵は一過性で、2~4週ほどで収まりますが、歯肉退縮が顕著に起こると長期に渡り沁みるのが収まらないこともあります。
ブラックトライアングル
こちらも歯肉の問題の一つで、叢生(歯の重なり)が多くある部位を矯正治療により歯列を並べた際に、歯間部歯肉の量が少ない場合に隙間ができ、黒い三角形としてみえるのでブラックトライアングルと呼ぶことがあります。
歯牙側面のコンタクト部を多少なり削合して、歯間距離を縮めることで隙間を目立ちにくくすることができますが、抜歯ケースでは、抜歯をしたうえで歯牙を削ると隙間が出来すぎるなど、治療方針や歯牙の形態的によっては削合が出来ずに、ブラックトライアングルが大きく残ることもあります。
歯面の脱灰
装置を付けるに当たり、現在多く取り入れられている方法がボンディング法といい、接着剤で歯面に装置を付ける方法です。装置を付けるに当たり、歯面を一層エッチング(酸)で溶かして装置を接着します。溶かされた歯面は通常、再石灰化作用により歯面が補強され何ら問題のなく滑沢な歯面(エナメル質)に戻されますが、これも顕微鏡レベルでみると実際には歯面のデコボコが残ることになります。
また、元々エナメル質の薄い歯や、エナメル質の硬さが柔らかい方は、矯正装置撤去後の歯面が粗造になりやすい場合があります。
インビザラインなのどの可撤式装置でブラケットを使用しない場合でも、歯牙の表面にアタッチメントと言う、プラスチックの出っ張りを付けることがあり、エッチングとボンディングを行います。
カリエスリスク(虫歯)
矯正措置を装着することによる虫歯のリスクがないとは言えませんが、歯磨きを意識的にしっかりとされている方は虫歯になることはまずありません。ただし、お子さんなどは技術的に十分でなかったり、歯磨きをおざなりにしがちでブラケットカリエス(装置の周囲が白く白濁する)がみられることも少なくありません。医院の方で対応出来るのは月一での来院時にクリーニングをするくらいなので、日々のお手入れを家庭で親御さんが対応して頂くことも必要です。
また、歯が重なっていた部分に歯の移動により虫歯が見つかることがありますが、これは矯正により新しくできた虫歯ではなく、元々有った虫歯が見えるようになった場合がほとんどです。
歯肉炎・歯周病リスク
これも歯磨きをしっかりとおこなって頂いていれば新たなリスクはないですが、元々歯肉に炎症がある場合にそのまま矯正治療を行ってしまうと、より状態が悪化してしまう場合がありますので、事前に歯肉炎・歯周病を治療しておくことが必要です。
矯正装置に奥歯に使用するバンドと呼ばれる装置があります。薄い金属の板を奥歯の周囲に巻いて装置を付けるものですが、一部が歯肉に被っていたり、歯と歯肉の間に挿入する形で装着することになるため歯肉のメンテナンスが自分ではできにくいので、定期的に歯医者さんでクリーニングをお勧めします。バンドの装置は使用せずブラケットだけを直接歯に付けることが出来る場合もあるのでドクターに相談してみて頂けるといいかもしれません。
歯髄(歯の中の神経)への影響
ごくまれに100~200人に1人ほどですが、矯正中に歯髄に炎症が起き強い痛みがでて、場合によって抜髄(歯の神経を取る)が必要になります。これに関しては何か原因がある訳ではなく、予めの予防・対応ができるものでもないのが現状です。抜髄を行っても矯正治療を行うことは可能です。
お顔・表情の変化
前歯の位置を大きく動かした場合、特に前歯を内側へ移動したり八重歯の犬歯を治した際にほうれい線が目立ってくる場合があります。必ずそうなる訳ではないですが、治療後の変化としてそのようになる方がいます。
笑顔の変化
笑った際に歯の見える量により、笑顔のイメージは変わります。歯の前突を気にされて抜歯治療をされる場合など、歯の角度や見える量の変化によっては笑顔が暗く見えることがあります。
また、骨格的な前突がある場合は、歯牙は後退しても歯槽骨・歯肉は前方に残るため、ガムスマイル(笑った際に歯茎が見える)の方はより歯茎の見え方が気になることがあります。
咀嚼障害
矯正中はやはり食べにくさはあります。慣れると比較的大丈夫になりますが、装置が破損する恐れがあるため、ナッツ類など硬い物は避けて頂く必要があります。
また、矯正治療を行うことで、逆に噛みにくくなることがあるのか?・・・残念ながらその可能性もあります。歯並びが悪くても長年その状態でいることにより生体の適応力によりそれほど支障なく食生活が送れている方も多くいます。矯正治療で歯を動かすということはそのバランスの取れている状態を一度崩すことになるため、完全に正しい位置へ歯牙を移動しない限り咬み合わせに問題が残ることになります。
前歯だけの部分治療の場合は奥歯を動かさないのが前提なので、その限りではないのですが、インビザラインに代表されるプレート矯正で奥歯も動かしてしまうとその後の落としどころが難しく場合によっては咬み難さが残ることがあります。プレート矯正を選ばれる際は事前にきちんとドクターにその旨確認を取られることをお勧めします。
発音障害
舌側装置を選択された場合などは、慣れるまでは発音しにくくなることがあります。また、抜歯治療を行うと、口腔容積が小さくなり舌の動けるスペースが狭まることで、しゃべり難くなられる方がいます。これが一時的で慣れることもありますが、継続することもあります。
抜歯スペースの閉鎖困難
抜歯した隙間が閉じ切らず、またそれ以外の部位に隙間が残る場合があります。上顎臼歯の歯根は上顎洞といい鼻の奥の鼻腔の壁に近く、そこは固い骨のため歯牙の動きが制限される場合があります。これは、事前の検査で分かることなので、あらかじめドクターより話が出る場合もあります。
骨隆起
歯牙に過度な力が加わると歯槽骨の一部の骨が膨らんできたり、歯茎がデコボコしてくる骨隆起が出来ることがあります。骨隆起はよく下顎の犬歯~小臼歯の内側の歯茎に小高い膨らみとして見られることがありますが、抜歯ケースなどでは前歯歯肉にデコボコした骨の凹凸として出来ることもあります。病的なものではないので、治療が必要な訳ではないですが、見た目的に気なる場合もあります。気になる場合は外科的に削除が可能です。
後戻り
矯正治療には大きく分けて動的治療期間と保定期間の2つの治療段階があります。
動的治療期間は器具を付けて積極的に歯を動かす期間で、保定期間は動かし終わった綺麗な歯並びをキープしておく期間です。動的治療期間に比べて保定期間は少しないがしろにされがちですが、折角綺麗に治した歯並びを維持するためにはとても重要です。
保定期間で行うことは歯を動かす装置と比べればシンプルですが、何かしら装置を使用して歯牙の動きを保持することになります。取り外し式で患者さんに日々の生活の中で管理してもらうものから、歯牙の裏側にワイヤーを固定して動きを保持するものなどいくつかの種類があります。取り外しの物は外してしまえばお口の中に何もない状態で快適ですが、歯並びを維持するのを目的なので外しておく時間は短くする必要があります。
当医院で主に歯の裏側にワイヤーを張り付け固定する物で、患者様の協力は必要なく保定が可能な物を使用します。
保定は通常2年程行いますが、2年経ったから絶対に歯が動かないか?と言うとそうでもなく、人が生体として生きている限りいろいろな変化がありその中で歯牙の位置も変るのが普通です。2年後以降もワイヤーを付け保定を行うことも可能です。その判断は患者様にお任せ致しますが、良い歯並びをなるべく維持されたいのであれば保定装置を付けておくことをお勧めします。
矯正後の歯の移動
上記の内容とは矛盾しますが、保定中であっても思わぬ方向へ歯が移動してしまうことがあります。特に食いしばりや歯ぎしりがある方や、口腔周囲筋の(舌・唇・頬粘膜)の使い方によって歯の位置が変化する場合があります。そのような状態が見られる場合は、ナイトガードを使用して頂いたり、口腔周囲筋の過緊張・習癖を改善するためのトレーニングなどが必要になることがあります。
患者様の状況によって起因するもの
矯正治療をするからにはより良い状態へ治したいと思われて治療を行われると思います。しかし、患者様の状態は歯の形やアゴの位置などは一様ではなくすべての患者様を理想的な仕上がりに持っていける訳ではありません。全顎的に治療をおこなったとしても100点満点の仕上がりに出来るケースは5%程でしょうか。大方は90点だったり、80点だったり・・・例えば骨格的にアゴ自体が大きくズレているような方では、矯正治療だけではどんなに頑張っても50点どまり、なんて場合もあります。このような方をより100点に近づけるためには外科手術と矯正治療の併用が必要な訳です。
治療によりどこまでの回復が可能かは初めにドクターからの説明があって然るべきですが、後々トラブルにならないためにも、患者様としても事前に何処まで可能なのかをきちんとドクターに確認して始めたいところです。
なお、歯並びの仕上がりに影響する問題としては、以下のようなものがあります。
顎の骨の形態的な問題、歯牙の形態的問題、上顎洞と歯根の関係、歯茎の状態、歯根の状態、舌の位置・使い方、噛み癖、歯ぎしり・食いしばり、咬合力、寝ぐせ、姿勢・・・
など、多様な状況が矯正を行った場合の仕上がりに影響を及ぼし、これらの問題が全くない方の方が少ない訳ですから、パーフェクトが難しいのもご理解頂けると思います。
歯が動かない
力を掛けているのに全く歯が動かないという場合があります。アンキローシス(骨性癒着:歯と歯槽骨が癒着している)や歯根癒着(隣り合う根同士が癒着している)ことで起こることがあります。事前に予測出来る場合もありますが、癒着部位によっては予測が難しく、この場合は途中で治療をあきらめなくてはならない場合もあります。
その他、予測しえない問題
ここに挙げた以外にも、人間の体は千差万別、まだまだ分からないことも多くあり、予想を超えた問題が起こることがあります。そのような問題が起きた際は、適時説明をさせて頂き対応させて頂くことになります。
矯正治療は多くの方にとって人生初めての治療です。
それでも有意義な治療にしていただけるよう、当院では治療のことならどんな質問にもお答えしています。
ご不明点がある方は、担当医までご相談ください。
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